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とにもかくにも、大阪国際室内楽コンクール&フェスタの半分、コンクール部門が数時間前に終わった。特殊奏法の響きが飛び交った本選ステージ、チーフカメラマン栗山氏のアーティスト魂を刺激したのか、本日の1枚はちょっと凝った特殊技法によるイメージカットである。
 
アルカディアQの音楽は、いずみホールのステージから、どこの高みに登っていくのだろうか。もう1枚のカットも、トリオ・ラファールの弓と弦から、音楽が生まれる瞬間。
 
午前11時から午後9時まで、7団体のセッションが続き、結果が発表されたのはその1時間後。
 
このコンクール、基本的に1次及び2次予選の審査は極めて簡単とのこと。1次では7団体、2次では3団体の「審査員が次のステージで聴きたいと思う団体」を選び、提出する。事務局が集計し、〇の多い団体順に自動的に次の予選に進む。
 
要は「フェスタ」の一般審査員が行なう作業と同じだ(だから、各ステージで結果が発表されるまで20分もかからなかったのである)。そうと知れば、昨日のマーティン・ビーヴァー審査員のインタヴューの発言も、なるほど納得されよう。
 
本選の結果決定方法もさほど面倒なものではないとのこと。各順位に相応しい団体はどこか、第1位を手始めに各審査員が名前を挙げる。集計し、数が多い団体がその順位となる。7名の審査員なので、票数が「2対2対2対1」なり「3対3対1」になった場合は、1票だった団体を外して再び投票。そんなプロセスを繰り返すのみ。
 
案外と散文的なプロセスで選ばれた結果を記す前に、本日のいずみホールで眺めたステージの様子を演奏順にざっと眺めておこう。
 
コンクールを主催する財団がテレビ局系列であるためか、ハイビジョンカメラが彼方此方に据えられた中、月曜の午前中というのにいずみホールには各地からかなりの数の聴衆が詰めかけた。
 
最初に登場したノトス・クァルテットは、野平作品でグリッサンドが集まったような響きを汚くならないギリギリのところまで踏み込んで再現してくれる。ブラームスのト短調四重奏は、派手なお祭り騒ぎにせずにじっくり、練れた弦のアンサンブルを聴かせてくれた。
 
トリオ・アドルノの武満は、フワフワと漂う響きをしっかりと調性の重みに落とし込もうとする、はっきりした方向性を持った再現。ガッチリした、というのではないけれど、なるほどこういうタケミツもあるのだ、と思わせてくれる。
 
シューベルトD.929 でも引き締まった響きが印象的。ヴィーン的というのではないけれど、本日聴けた3つのシューベルト再現の中では最もシューベルトっぽい響きだったかも。終楽章を楽しいだけのロンドにせず、この作曲家が無数に書いたロンド形式アレグロのフィナーレでも最も微妙な陰影に富んだ音楽ではないかと感じさせてくれたのは立派なものだ。
 
過去2度のステージで一部から熱狂的な支持を得た感もあるアタナソフのピアノは、シューベルトのD.898でも変わらない。決してベッタリと歌うことなく、繊細な響きと間をトリオのアンサンブルにまで拡大する。物理的な音量はともかく、印象としては最大でもmfくらいで推移しているように感じさせる音楽は、コーダでやっとそこそこの爆発を聴かせてくれた。
 
満を侍して武満を後半に置いたプログラミング、予想された通り薄明の中を静かにモチーフが漂い、騒ぐこともなく消えていく、幽玄の世界。この芸風を貫くなら、結果がどうあれ日本の聴衆には愛される団体になるのでは。
 
第2部門の最後を飾ったトリオ・ラフォール、武満では所有する響きを様々に繰り出し、極めてバランスの良い響きを作り上げる。シューベルトD.929では敢えて「シューベルトっぽい」響きを作ろうとはせず、自分らのいつも通りの多彩なパレットで精密な響きを作り出す。退屈になりかねない終楽章も巧みに構築した。
 
第2部門の結果を発表することなく、そのまま第1部門に突入。最初のヴァスムートQ、本日はブレンダン・シェイが第1ヴァイオリンに坐る。最初に演奏されたのがベートーヴェン作品132だったのが興味深い。現在の自分らの持つ音楽的な言葉の全てを投入し、きちんと語ろうとしたストレートな音楽だ。第3楽章の快癒の歌がちょっとばかりストレートな喜びに鳴り過ぎる感もあるし、終楽章のアレグロもドンドン駆け抜けて行ってしまう勢いの良さ。若いといえばそれまでだが、今しかできないベートーヴェン後期もあるのだろう。作曲家を前に披露された西村第2番、楽譜を可能な限り正確に再現しようとする余り、音楽の流れよりも小品集のように感じられてしまったのは本意だったのかしら。
 
なお、明日の午後には3つの再現を聴いての感想を西村氏御本人からいただけることになっている。請うご期待。
 
アルカディアQは、西村作品のケチャの響きをまるで馴染みのバルトークかリゲティのように処理する。不思議なほど判り易い音楽に聴こえたのは、彼らなりに誠実に楽譜に対した結果であろう。
 
ベートーヴェンの作品131では、今時の若い弦楽四重奏らしからぬちょっと古めかしい、とても懐かしい音楽が提示された。時代楽器やらピリオド奏法やらとは無縁、でも高レベルな現代の技術水準で決して鋭くならない、暗く重く鳴り過ぎない音楽が心に染み入ってくる。
 
長いセッションを閉じたカヴァレッリQ、西村は非常に良く判っている見通しの良い再現であった。終演後に演奏者に尋ねたら、なんとこの作品初演当時のアルディッティQの第2ヴァイオリンで、現在はロンドン響首席第2ヴァイオリン奏者のダヴィッド・アルバーマンにコーチをして貰ったとのこと。まさか初演者直伝の演奏をイギリスの団体から聴こうとは思ってもみなかった。
 
長いセッションを締め括る《死と乙女》は、もうすっかり完成した音楽。コンクールというよりも、弾き慣れた楽譜の安定した再現で一晩のコンサートが締め括られたかのようである。
 
 
かくて、第8回大阪国際コンクールの結果は、以下のようになった。
 
第1部門
第1位:アルカディアQ
第2位:カヴァレッリQ
第3位:ヴァスムートQ
 
第2部門
第1位:トリオ・ラフォール
第2位:ノトス・クァルテット
第3位:トリオ・アタナソフ
奨励賞:トリオ・アドルノ
 
トリオ・ラフォールは、第1回大会優勝のトリオ・ジャン・ポール以来21年ぶりの、大阪&メルボルン両大会制覇団体となった。アルカディアQは、これまでの大阪優勝団体にはなかった、ちょっと懐古趣味とも言える傾向のグループである。
 
発表を終えたあと、かなり意気消沈したトリオ・アドルノ、静けさの中に無念さを隠さないトリオ・アタナソフ、ここまでよくやったとさばさばしたヴァスムートQ、それぞれのキャリアなりに、結果の受け止め方も様々だ。
 
そんななか、第2位となったカヴァレッリQは、もう次の旅支度を始めている。向かうはレッジョ・エミリア。1週間後の26日には、パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクールが開幕する。
 
大阪初夏の陣で本丸まであと一歩まで迫った若者らの前には、年齢制限で大阪には参戦出来なかったバーナバス・ケレマン率いるケレマンQが本陣を張っている。名勝負必至。
 

コンクール部門ファイナル&

結果発表

ライヴストリーミング

http://www.ustream.tv/channel/the-8th

第8回大阪国際室内楽コンクール&フェスタ

大阪初夏の陣 〈9〉

音楽ジャーナリスト 渡辺 和

INDEX

以下の写真は、クリック(タップ)すると、

拡大され、キャプションも出ます。

魂の競演

(写真:日本室内楽振興財団チーフ・フォトグラファー:栗山主税)

コンクールチーフカメラマンの

今日の1枚

フェスタ本選
 
20日(火)
 
11:00〜デュオ・ゲラシメス(ドイツ)
 
11:30〜アンサンブル・ディーヴォ(ロシア)
 
12:00〜ペトロ・デュエット(ロシア)
 
13:30〜打楽器集団「男群(オグン)」(日本)
 
14:05〜ストリングス・アンド・キーズ(ロシア)
 
15:00〜カリヨン(デンマーク)
 
15:30〜トリオ・パラフレーズ(ロシア)
 
16:00〜ダス・クライネ・ヴィーン・トリオ(オーストリア

© 2014 by アッコルド出版

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