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尾池のブルーマンデー憂さ晴らし
ヴァイオリニスト 尾池亜美
第89回 Disciplineの世界
こんにちは!憂さ晴らしのお時間です。
グラーツに『住み』始めて数日経ったと思えば、すぐにまた旅が始まりました。もうすぐ終わりますが…お隣スイスはベルンにやってまいりました。
グラーツからチューリヒまでの夜行列車で。夕暮れみたいに見える朝日です。
今回初めて気づいたのですが、スイスの電車にも日時を指定したチケットを購入することで3割以上割引になるというシステムが導入されたみたいで、前よりずいぶんと難なく移動が出来るようになりました。旅行の方にもお勧めです。だいたいの電車が一時間に2〜4本なので、乗り遅れさえしなければお得です。前からあってほしかったな〜。
さて、今回の目的はザハール・ブロン氏が主宰で始まった第一回目のコンクールへの参加。色々なことが重なり1次で気持ちよく脱線したのですが(笑)個人的に実りの大きなものになりました。
特に今回初めてブロン氏に巡りあったので、彼の醸し出す雰囲気を(一番最初の順番決めのくじ引きの瞬間だけであれ)真近で感じられたのも貴重でした。(笑)
彼は素晴らしいとか良いとかいう次元ではなくて、最高のレベルにコントロールされた精神をお持ちだというのが印象でした。
Discipline 訓練、鍛錬、自制などの意味の言葉がありますが、彼は自制の人で、それも制限したり禁止の自制ではなく積極的自制。
何々してはダメでなく、こうあるべきだ!というものがしっかりあるのですね。レッスンや演奏を聞かずして、素晴らしい教育者たる所以が伝わってきました。
そんな彼がコンクール期間中、審査員コンサートも開催。審査員の方々と何曲かデュオで演奏され、若手のMaurizio Sciarretta氏とは、ヘンデルのトリオソナタと、1937年生まれのロジア人作曲家フロロフのジャズテイスト満載の曲をかるがると演奏。面白かったので他の方の演奏ですがご紹介。
Frolov: Divertissement
そして壮年と言っても失礼ではなかろう1965年のパガニーニコンクールの覇者、Viktor Pikayzen氏とバッハの2台ヴァイオリンとピアノのためのソナタを。Pikayzen氏のまろやかな音にも遠慮なくぱっきぱきの攻めの音で共演されていましたが(笑)ブロン氏と彼を取り巻くロシア巨匠の世界を垣間見れました。
他の審査員も、歴代の巨匠と学んだ人や、コンクールの覇者がぞろりと。参加者する方はコンクールの覇者たちに教えられ弟子、孫弟子として育っていきコンクール第二、第三世代として聞かれるわけで、この半世紀で物凄い精度の上がり方をしたのだろうと思います。
演奏は解釈、パフォーマンス、質、完成度など様々な面がありますが、この第二、三世代が競う際には完成度とパフォーマンスにかなり重点が置かれます。それもそのはず、審査員自身がコンクールを経験しているため、彼らが教える生徒たちの演奏とは、しっかりとした練習に裏付けられた、勝つためのノウハウが満載なのです。
それはもはや意志とか解釈の領域を超えている気がします。Disciplineの世界です。そしてそういう人たちの演奏には説得力が有ります。雄弁なのです。それが強さです。第一回目のコンクールですが、勝ちに来ている人の気迫は古株のコンクールよりもすごかった気がします。ブロン氏の世界に素直に感動していました。
そんな彼らをちょっと遠巻きに見ていてか、昨日練習している時に、自分自身にこれまでと全く違った感覚が訪れ、おっ!と言ってしまうような発見をしたようで、それをテーマに残りの留学期間研究できる気がしてきました。これについては、また練ってこれたら書きたいと思います。
それでは、どうぞよい一週間を!!
Ami Oike
French Romanticism
尾池亜美 ヴァイオリン
尾池亜美(ヴァイオリン)
佐野隆哉(ピアノ)
セザール・フランク:ヴァイオリン・ソナタ・イ長調
カミーユ・サン=サーンス:ヴァイオリン・ソナタ第1番ニ短調Op.75
クロード・ドビュッシー:夢
定価2,500円(税込)
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