ハーピストSANAEのハープ革命
第26回「火事の現実」
こんにちは。ハーピストのSANAEです。
連載中のコラム、少し時間があいてしまいました。
実は、自宅マンションで火災に遭いました。
年末の火の用心も近いことですし、
今回は私が遭った火災について、
書けるところまでを率直に書いてみて、
少しでも火災というものを知っていただけたらと思っています。
10月19日月曜日。
私はこの日はオフで
朝寝坊するつもりで、目覚ましをかけずに寝ていました。
ベッドは窓側。
【ガラガラガッシャーン! バチバチバチ!! バタン!】
朝9時過ぎに、窓のすぐ外でものすごい物音。
「不審者?」
よほど荒っぽい不審者だと怖くなって、
5分ほどベッドから動けずにいましたが、
強烈な焦げる臭い、
ずっと続く「バチバチバチ!!」という音、
遮光カーテン越しに煙の影が見え
通気口からも煙が入ってきているのに気づき、
窓を開けると
既に隣屋のベランダに炎があがっていました。
「え?」
何が起こったのかよく理解できずに
ベランダへ出てみると
下の通りがけの方々が
「火事だよ!逃げて!」と叫ぶのが聞こえます。
それでもまだ状況がつかめずにいました。
自宅マンションは数十戸はある規模のマンションですが
火災報知器などは鳴っておらず、
前の夜は遅くまでかなり飲んでいて
寝起きですぐ隣で火災をみても、
一瞬何が何だか理解ができませんでした。
いざ119番を押そうとしても
意外とかけられないものです。
炎みながら、スマホ片手に
キーパッドを押しましたが、
あせって1や9がおせません、
違うところをタッチしてしまいます。
そうこうしているうちに
通りがけの方々が
「通報したから!逃げて!」
とまた声をかけてくださり、
わけわからぬまま、着の身着のまま
玄関を開けてマンションの中廊下に出てみると
既に真っ黒の煙が充満していて、
廊下は朝なので真っ暗。
視界がゼロの状態。
非常口が2つあるのを知っていたので、
とにかく煙を出さなければと、
まず2つの非常口の扉を開けに向かいました。
このとき、このフロアの部屋は留守ばかりで、
フロアにいた人は私だけだったようです。
非常口の扉を解放するのに、
近くにあった自転車で扉をつっかえさせて
もう一つのドアには、
火事の部屋の、ミネラルウォーターの宅急便が
廊下に出ていたのでそれで解放にしたところで
そこへ下のフロアの住人の方が火事に気づいて
消化器を持って非常階段をあがってきてくださったのですが、
火事の部屋の扉は既に炎で熱気を帯びており、
危険だから避難しましょうと先に非常階段を降りていかれました。
私は楽器が心配で仕方なくて
まだフロアに残っていました。
ハープが3台とピアノがあります。
ピアノはとても持っていけません。
「いちばん大事なハープ、どうしよう?」
グランドハープ、エレクトリックハープ、レバーハープの
3台を持っています。
「グランドハープ、、運べる? 5階から階段で! 無理だ、、」
エレクトリックとレバーハープなら
重さ15キロくらいになるけど
2台持てるかも、2台は救える!と思っていたところに
消防車到着。
特攻役の消防士が
1フロアごとに確認しながら上がってくるのがもどかしく
非常口から「こちらこちら、5階!」と叫び、誘導しました。
状況を聞かれたので
「隣屋の玄関扉がもう熱くなっていて、ベランダに火が出ています。」
と言って部屋前まで案内しました。
隣室の扉の熱気を確認して内線で報告しつつ
火を見たいから
うちの中を土足で通してくれとのことで、
うちの中、そのまま通しました。
一般マンションの部屋のあいまにある
「非常時は破れます」という壁を破ったところを
初めてみました。
わりと簡単にぱりんと割れます。
ところが。
隣室の住人はベランダにいろんなものを置いていて
壁をやぶったとたん
植木や、物干し竿に衝突したようでした。
みなさま、物を置かないようにしましょう。
消防士さん、命がけで破って進むのです。
「火を確認」というような主旨の内線が聞こえます。
その後、第2陣の消防士さんたちの数人のグループを
同じように、自宅の中を土足で通し
(ひとりだけ、靴脱いでくれました)
おろおろしていたところへ
「避難してください!」と声がかかりました。
いざそう言われても、
何を持ったら良いかわかりません。
「携帯!」と思うと、そういうときに限って携帯がみつからない。
消防士さんに
「うちに火や水がまわりますか?」と確認したところ
「今のところおそらくまわらずにすむと思う」
その言葉を信じて、ハープを持ち出すのを止めました。
廊下もひどい煙などなので、、
たしかタオルがいるかもと、タオルばっかり2、3枚バッグに入れて、
銀行の通帳を入れたけど、銀行印は持っていないというような
混乱した状態で促されて部屋を後にしましたが、
そのとき、消防士さんは中廊下で
ものすごいチェーンソーで金属の玄関扉をあっという間に
ぶちぬいていました。
ものの数秒です。
報道のかたですら、そういうのは知っていても
その現場には出くわすことも、見たこともない
という現場を目の当たりにしました。
炎が飛び出す可能性もあるわけですから、、
本当に命がけです。
非常階段を1階まで降りましたが、
煙を吸っていたので
私はめまい、頭痛、咳き込み、
軽い一酸化炭素中毒症状が出ていて
救急隊員のところで消火中お世話になっていました。
消火したとはいえ、頭のなかは放心状態です。
部屋に戻ると窓が開いていました。
消防士さんが避難を確認するために必ず声がけするのだそうです。
それを責めることは誰にもできないでしょう。
扉が閉まっていても、
住宅というのは密閉された空間ではありません。
必ず通気口がいくつもあり、換気扇も随所にあり、
扉にもすきま風や、空気が入るスペースがあります。
鍵穴も同様。
煤は、ざっくり炭素、
粒子なのです。
ざっくり、酸素が通過するところは、煤が通過するといっても
過言ではないでしょう。
火事はたき火ではありません、
燃えてはいけないもの、有毒ないろいろなものが
多量に跡形がないほど燃えてしまっています。
例えば、スポーツバッグのファスナーをきっちり閉めておいても
中身は煤だらけです。
布地、ファスナー、縫い目、さまざまなところから
有毒な煤は入り込みます。
3歩歩いただけで、足の裏は見たことがない真っ黒、
そのへんの黒の布地より黒くなりますし、
火事のひどい臭いは例えようがありませんが、
5秒に1度はオエーと吐き気をもよおす
(お食事中のかたすみません)
ひどいものです、3週間以上経っても残っています。
ハープは仕事で使えない状態となったり、
家財、衣装、衣類、家電の大半はダメになりました。
火災の後は、心身ともに極限状態にあり
火災後一週間でできたお食事は、1週間で3食のみ。
3日に1回くらいで、
睡眠時間はどんなに深酒してもゼロ時間でした。
2~3週間目も、放心状態が続いていて
目の前のことで精一杯、
こんな状態で大きな本番やレコーディング、
仕事をたくさんこなすのは
かなりのエネルギーと精神力が必要でしたが、
きっと通常時と比較して足りていなかったのだと思います。
そしてこれを書いているのは
私のお誕生日です。
なんというとんでもお誕生日でしょう、
仕事のあと
火事の始末、使えなくなったものの処分手配、
粗大ごみ手配。
部屋はとても住める状態ではなく
火事直後からホテルや友人の家にお世話になったり、
ようやく仮住まいに寝床を確保しました、
といっても、ベッドもダメになったので
とりあえず買って、シーツもなく、
ベッドマットの上に、無印良品でいそいで買ってきた毛布にくるまって
枕もなにもなく、寝ています。
火事は本当に大変です、
私のように無関係にもらってしまい、
怖い思いをして避難した人は
いたたまれません。
火の用心、ぜひ、おすすめいたします。
SANAE(ハープ奏者)
日本におけるエレクトリックハープの第一人者として、本邦初の立奏スタイルを採用し、これまでになかった斬新で革新的なハープサウンド、ステージ、新しい演奏テクニックをも生み出す新しい可能性を拓くハーピスト。
エレキハープ、エレアコ・ハープ、グランドハープ、レバーハープ、シングルアクションハープ等の様々な種類のハープを弾きこなす。
東京音楽大学出身、これまでにハープを篠崎史子、島崎節子、吉田みちこの各氏に師事。
最近では2012年ベトナムフェスティバル・メインステージへのソロ出演、2013年7月エレキハープでのライブアルバム「SANAE/SOUHAIT」をリリース。レコ発ライブツアーを東京ほか、全国で3公演開催。
現在、日本全国でソロ活動のほか、イベントやライブ、フェスティバル、メディア等への出演や、レコーディングなど、ポップス、ジャズ、ロック、エレクトロ、ダンスミュージックにソウル、映画音楽やクラシック、ミュージカル、民族音楽、ワークショップ講演など幅広く活動中。
2014年はFMやまと「大和でNANANA ハーピストSANAEのCome☆音!」番組パーソナリティ。
セカンドアルバムリリースの予定もされており、これまでになかったダイナミックで迫力ある斬新なハープの表現が注目を集めている。